
頂点を目指す、不屈の覚悟。全ては世界一の男になるための手段ーー水野智大【UNSTOPPABLES】#2
2025年3月7日
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「今日も200人を追い越して、いつか全ての領域で世界一になる」
毎朝、自分にそう言い聞かせる。それは決して冗談でも、ただの野心でもない。自らに課した”生き方”そのものだ。
SHIBUYA CITY FCの選手会長、水野智大。ピッチで戦うだけでなく、クラブの未来を見据え、組織の在り方を考え続ける責務も担う。プレーも組織運営も、一切の妥協はない。どちらも「世界一」への道の過程だからだ。
【UNSTOPPABLES~止められない奴ら~】
昨シーズン、関東2部への昇格を決めたSHIBUYA CITY FC。その栄光の背後には、ただの勝利以上のものが隠されていた。選手たちの揺るぎない自信と勢いは、彼らの人生に深く刻まれた歩みから来ている。勝利への執念、それを支える信条。止まることを知らない、彼らの真の姿が、今明らかになる。
第2回は、選手会長・水野智大。サッカークラブという組織のあり方、過去2回の怪我による挫折。それらすべてを確実に言語化してくれた。停滞を拒み、常に前へ進み続けるその想いに迫る。
水野 智大(みずの ともひろ)/ MF
愛知県岡崎市出身。1999年7月17日生まれ。162cm、60kg。名古屋グランパスの下部組織で中学時代を過ごし、刈谷高校へ。高校1年時に愛知県新人賞を受賞、2年時にはインターハイ全国大会に出場し、愛知県ベストイレブンにも選出された。1年の浪人生活を経て、鹿屋体育大学へ進学。3年時から副将も務め、レギュラーとしてインカレ出場を果たす。2023シーズン、SHIBUYA CITY FCに加入。選手会長としてチームをまとめ、組織の成長にも貢献。小柄ながらも、試合の流れを読み、的確なポジショニングと献身的なプレーでチームを支える。
組織運営に必要な「平等性」
選手とクラブをつなぐ架け橋、それが選手会。水野が会長を務めるこの組織には4名の選手が在籍し、それぞれが6~7人の選手を担当する形でグループが形成される。選手の声を集め、クラブスタッフと共に解決策を探る。社会人クラブならではの課題である、環境面、経理面、意識の違い。Jリーグクラブとは異なり、選手たちはサッカーだけに集中できるわけではなく、それぞれの異なる背景を持っている。
その中で、一つの組織として機能するためには、単に試合で結果を出すだけではなく、選手同士が協力し合う土壌が不可欠だ。水野は選手会長として、その環境を整えることに力を注いでいる。
「組織が存在する中で、意見が出ること自体は健全なことです。でもそれをきちんと伝え、理解し合う場がないと不満だけが募っていく。どうして実行できないのかをクラブ側が説明すれば、選手たちに納得が生まれる。解決しない理由がわからないままでは、組織が悪い方向に進んでしまう。だからこそ、選手会はそういう場でありたいと思っています」
選手が納得しないままでは、組織は停滞し、ピッチ上のパフォーマンスにも影響しかねない。そうした問題を防ぐためにも、「意見を伝え、理解を生む場」として機能することが重要なのだ。さらに水野は、組織には二つの要素が必要だと考えている。
「強い選手を獲得すれば勝てる、それが『機能性』です。フロント側は当然、昇格を目指します。でもそれだけじゃダメで、チームとしての力、つまり『協働性』も欠かせません」
そしてもう一つ、選手会として重要な要素があるという。
「この二つの他に『平等性』も加えなくてはいけない。地域クラブとして、この『平等性』が大切だという雰囲気やカルチャーを作りたくて、選手会を立ち上げました。みんなで方向性を合わせることがチームにとってプラスになりますし、このクラブにいて楽しいと思える組織にしたいんです」
上を目指すからこそ、競争が激しくなり、個々の選手の立場に差が生まれてしまう。その中で、全員がチームの一員として価値を感じられる環境を作ることに注力しているのだ。
そんな水野は、選手会長としてクラブ全体を見渡し、選手だけでなくフロントスタッフとも密にコミュニケーションを取ることを自身の強みとしている。だが、意外にも「表に出るのは苦手」だそうだ。「どうやって動かせば解決するのかを考えるのは好きなんです。でも、人前に出るのは得意じゃない」と率直に語る。
「時に周りを気にせず発言することは、選手会を行う上で大切です。例えば、次のミーティングまでに試合に出られなければ、元気に振る舞うとか、必ず面と向かって選手と向き合うみたいな宣言をして、自分の殻を破りました」
競争相手でありながら、仲間でもある。選手会は同じ宿命を背負う者たちが、より良いクラブを創るために協力する場所であり、同時に自分自身を成長させる場でもあった。

2度の怪我から得た自己革新
名古屋グランパスジュニアユース時代、選抜経験もあるエリートとして育ってきた水野。しかし、12歳から14歳の2年間、怪我でサッカーから離れることを余儀なくされた。
「復帰したら、まったく体が動かなかった。それで腐って、不貞腐れていました。このままではだめだと思い、そこから周りのことも意識して見るようになりました」
それまで順風満帆だった道が突然断たれる。成長期の真っ只中で、2年間プレーができないのは想像以上のダメージだっただろう。しかし、水野は状況を読む力を磨くことで、新たな成長のきっかけを見出した。
その後は伝統校、刈谷高校へ進学。しかし卒業後はすぐに進学せず、1年間の浪人生活を選ぶ。朝7時から塾に通いながら、高校の部活に週に2日顔を出し、その後はジムでトレーニング。偏差値の高い高校に通っていたが、勉強ができなかったことがコンプレックスだったという。
決死の浪人生活を経て、鹿屋体育大学へ。一般生として入学しながら、トップチームのスタメンを勝ち取るという前例のない快挙を成し遂げる。しかし、そこに至る道のりも決して楽ではなかった。
「大学2年のとき、また7ヶ月の怪我。このままだと不貞腐れた中学時代に戻ると思い、今の頑張っている延長線上には成果がないと思ったので、違うやり方を模索し、パーソナルトレーニングやメンタルトレーニングを始めました」
怪我をするたびに「なぜ自分だけが」と思い詰める選手は少なくない。しかし水野は、身体と感情に向き合いながら、自分への認知と行動を変えることができた。でも、その安心感が次の壁となった。
「変われたことで満足してしまっていた。これが良くなくて。どんどん変わり続けないと、人間は退化する。それに気づいたのが去年でした」

「変わること」に成功すると、それを維持することに意識が向く。しかし、水野はそこに危機感を抱いた。変わり続けなければ成長は止まり、むしろ退化する。そう気づいたのは、社会人1年目のことだった。圧倒的に仕事ができる人たちと共に働く中で、水野にとって大きな武器だった「周りを見る力」だけでは通用しないことを痛感する。
「周りを見るだけでは自分が目指してる目標には届かないんだというのを認識し、両方のバランスを大事にするようになりました。個人を主張し、ちゃんと正しいことを正しいと言うことは組織にとって大事だと学びました」
これまで「周りを見て動くこと」に重点を置いてきた。しかし、それだけでは足りない。時には自分を主張する必要がある。そうして水野はまた一つ、成長の階段を上がっていった。
自分を超えていく、成長戦略と知識の追求
昨シーズンの春、水野は試合にすら出られない状況が続いた。調子が悪いわけでもないのに出場機会を得られないもどかしさと、それが続くことへの危機感。だが、水野はそこで腐らず、その感情をエネルギーに変えた。
「こんな中途半端な状態はダサいし、サッカーをやる意味がないなと思ったんです。死ぬ気でやって、それでも出れなかったら仕方ない。そこからは結果だけではなく、自分の成長率にフォーカスしました」
その考え方は、選手としての成長戦略でもあり、彼が選手会長を務める上でも重要な視点だった。
個人として試合に出て結果を残すこと。そして、選手会長としてチーム全体をまとめること。この二つを両立することは決して容易いことではなかった。選手として結果を残せなければ、選手会長という立場が重荷に感じることもあるはずだ。しかし、水野はそうした葛藤と向き合い、考え続けた。
「どう切り分けて現場に向かうかを考えるのは難しかったです。最終的にはこのクラブを関東昇格させることが自分のミッションであると、ちゃんと納得したのが夏頃でした」
個人の成長とチームの成功。そのどちらとも妥協せずに追い続けた先に、昇格という結果がついてきた。
「そこからは今までの人生の中で、サッカーも仕事も私生活もコミットできました。何があろうともやるって決めたものはやると徹底。食事、睡眠、トレーニング、仕事をすべてフルマックスでやりました。自分のコンディションも上がって昇格できたので、サッカー人生の中で自分だけではなく、クラブや周りに対してフォーカスできた、すごい素晴らしい一年だったなと。今年はさらに1ギア上がってます!」

単なる気合いや根性論ではなく、水野は科学的なアプローチも取り入れる。最近では脳科学を学び、パフォーマンスを上げるための「意識と無意識」について研究している。
「人間の行動の97%は無意識が占めている。だから3%の意識だけで頑張ろうとしても限界がある。意識より、無意識にアプローチすることが大事なんです」
具体的な手法として、日常のルーティンを意図的に変えることを取り入れている。
「基本的に人間は1日の中で7万回ぐらい考えています。これを毎日同じルーティンばかりしていたら、当たり前のように7万通り同じことをしてしまいます。例えば、歯磨きを左手でする、数十分散歩をする、スクワットを段差をつけて取り組むだけでも無意識に負荷が変わってくる。これはスポーツ科学的には正しくないかもしれないですが、脳科学や認知科学的には効果があります」
知識への貪欲さも水野の強みだ。次に読む本は『人体600万年史』。人類の進化の歴史を知ることで、さらなる成長のヒントを探る。プレーだけではなく、思考も鍛え続ける。それが水野のスタイルだ。
恐れを超えて進化する。世界一への男への道
最後に尋ねた。自分にとって、「頂点」とは何か。
水野は迷うことなく答えた。
「男として世界一になることです。サッカーとビジネスはそのための手段にすぎません。毎朝起きて、『今日も全ての領域で200人を抜く』って思って行動します。誰が何を言おうと関係なく、それを思って努力しています。それが口だけじゃなくて、行動が伴っているときは自信があります。常に現時点が、自分の最低限だと認識しているので」
その言葉には自分の軸がブレることなく、確固たる信念が宿っていた。だが、それを傲慢にはしない。
「でも今こうやって偉そうなことを言っているじゃないですか。家に帰ったら、『言い過ぎたな、次は変えなきゃ』みたいに一人反省会をしています(笑)。でもこれが大事で、安心して何もやらない人はいっぱいいると思うんですけれど、自分で言ったからには変化し続ける人でありたいです」
現状維持は退化。だから、挑み続ける。サッカーという最高の武器を駆使して。
「自分がうまくなるために毎回向き合ったら、絶対行動が伴います。怖い場面でもボールを要求するし、ターンするし、トライする。その積み重ねが、自分のパフォーマンスを高めていく。そこで挑戦しなくてはサッカーをやってる意味がないです。まだまだですけどね。絶賛トライ中です。」
水野にとって、挑戦とは”特別なこと”ではなく、”日常”だ。失敗や恐れを理由に止まることはない。むしろ、それらを乗り越えることこそが、成長の証になると信じている。常に一人の男としてアップデートするために。

”世界一の男になる”
それは決して大言壮語ではない。世界の頂に立つその日まで、どこまでもストイックに、どこまでもひたむきに水野智大は走り続ける。その背中を追う者すら、いつか見えなくなるほどに。
取材・文 :西元 舞
写真 :福冨 倖希
企画・構成:斎藤 兼、畑間 直英
SHIBUYA CITY FC
渋谷からJリーグを目指すサッカークラブ。「PLAYNEW & SCRAMBLE」を理念に掲げ、渋谷の多様性を活かした新しく遊び心のあるピッチ内外の活動で、これまでにないクリエイティブなサッカークラブ創りを標榜している。
渋谷駅周辺6会場をジャックした都市型サッカーフェス「FOOTBALL JAM」や官民共同の地域貢献オープンイノベーションプロジェクト「渋谷をつなげる30人」の主宰、千駄ヶ谷コミュニティセンターの指定管理事業など、渋谷区での地域事業活動も多く実施している。
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