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【INTERVIEW】田中裕介が直感で決断した「新たなスタート」。SHIBUYA CITY FC移籍に込めた思い

2022年2月10日

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横浜F・マリノスや川崎フロンターレ、セレッソ大阪などで活躍し、Jリーグ通算336試合出場を誇る田中裕介がSHIBUYA CITY FCの一員となった。昨シーズンまでファジアーノ岡山に在籍していた経験豊富なDFは、なぜ東京都社会人サッカーリーグ1部のクラブを新天地に選んだのだろうか。CITYへの加入後初の独占インタビューで今回の移籍に込めた思いを聞いた。


――まずSHIBUYA CITY FC加入の経緯について教えてください。昨シーズンまでファジアーノ岡山に在籍しており、今シーズンもJリーグでプレーを続ける選択肢もあったのではないかと思います。

「岡山を契約満了で退団することになり、まずはJリーグのクラブで移籍先を模索していましたが、なかなか具体的な話はありませんでした。一方で『年内』を1つの区切りにしていて、そこを過ぎたらJリーグにこだわるのをやめようと考えていました。

地元である東京に戻って、仕事をしながらサッカーも続けようという考えが固まってきたのが1月10日くらい。それからいくつかのクラブの練習に参加させていただいたり、話を聞かせていただいたりしていました。実はCITYがその中でも最後に話したクラブだったんですけど、掲げているビジョンが自分のこれからの人生プランに最も近かったのが決め手となり、正式加入する運びとなりました」


――Jリーガーでなくなることに抵抗はなかったですか?

「最初はありました。やっぱり『まだできる』という気持ちもありましたし。一方、昨年は右ひざの怪我で長期間離脱することになり、これまで自分の脚を犠牲にして、全てを賭けてきたものを引き続き同じテンションで続けられるのかも考えさせられました。

Jリーグの中で移籍するにしても新天地に対してモチベーションがなかったら高いレベルでプレーできないでしょうし、日常におけるサッカーの割合や強度を少し落としてもいいんじゃないかという考えにシフトチェンジしていったんですね。だから自分から踏ん切りをつけた感じはしなかったです。自然と傾いていった感覚でした」


――プロクラブへの移籍とアマチュアクラブへの移籍で、決断に至るまでのプロセスや大事にしたことに違いはありましたか?

「プロの時は、やはり移籍先のクラブがどんなサッカーをしているかや所属する選手たちの質を大事にしていました。その中に入って自分が活躍するイメージを描けるかを基準にしていたつもりです。正直に言うと、複数のオファーをいただいた時に条件面で優っているクラブを選ばなかったこともありました。

そして、最終的には自分の直感を信じます。今回もその延長線上にあって、Jリーグ時代と同じように直感で決断しました。もっと上のカテゴリのクラブも声をかけてくださいましたが、『ここでチャレンジしたい』と思えたからこそCITYに移籍することにしました」

――プロサッカー選手は現役を引退すると指導者になることを選ぶケースが多いと思います。田中選手の場合、「プロ」のまま引退は考えなかったのでしょうか。そして、指導者ではない選択肢を取った理由があるのでしょうか。

「昔から漠然と、『プロサッカー選手』として引退して指導者になることはイメージしていました。ただ、ここ最近になって本当に『引退』のことを考えた時に、将来のためにもっといろいろな景色を見た方がいいのではないかという思いが芽生えてきました。

引退することでサッカーを100%から0%にするのではなく、サッカー選手としての自分をある程度残しておいた方が、精神的な面でも、その後の人生にうまくつながっていくのではないかと考えるようになったんです」


――もちろん現役引退後に全くサッカーと関わらない道を選ばれる方もいらっしゃいます。一方で、徐々にカテゴリを落としながらでも、自分の中にサッカー選手としての部分を残しておくことで、その後のチャレンジにおける精神的な支えになる側面もあるということですね。

「そうですね。全く動けないならスパッと引退していたかもしれないですけど、自分はまだまだ動ける。長期間プレーできなかった昨年の不完全燃焼感もあったので、必要とされるクラブへ行ってサッカーを続けながら、選手としてのキャリアを終えてからの人生に向けて進んでいった方がいいという考えです。自分にとってサッカーと今後の人生のバランスを考えた時に、一番しっくりきたのがCITYでした」


――CITYの魅力だと感じている部分に関して、もう少し具体的に教えてください。加入にあたって決め手となった要素は何だったのでしょうか。

「最も大きな魅力は、クラブが未完成ということです。CITYはこれから発展していく段階なので、今から携われば自分自身の成長やモチベーションにもつながると感じました。今回、自分からクラブ内で働きたいと提案させていただいて、その希望が叶いました。これまでは選手としてプレーするだけでしたが、運営する側に入ってみて得られることもたくさんあると思うので、学んだことを自分から発信していく機会も作りたいと思っています。

サッカー面で言うと、当然カテゴリが上がればレベルも高くなるんですけど、他の地域リーグのクラブの練習にも参加させていただいて感じたのは、どんなカテゴリであれ選手たちのモチベーションは非常に高いということでした。

サッカー以外の仕事をしている選手がほとんどの環境でプレーするのは初めてなので、不安があったのは事実です。でも、プロだろうがアマチュアだろうがサッカーを愛している気持ちに違いはなく、サッカーが大好きな選手たちが集まってきていることに刺激を受けましたし、そこに自分も入っていくことで何か新しいことを吸収できるのではないかという可能性を感じました。

生活の全てをサッカーに捧げていた人間が、午後に別の仕事をしながらサッカーをする環境に飛び込んで、サッカーが大好きな選手たちと一緒にプレーすることで、さらに成長できる。その環境を提供してくれたのがCITYだったので、今年もプレーを続ける決断に至りました」

――CITYには大卒1、2年目の若い選手も多く在籍しています。その中で、Jリーグでの経験も豊富な田中選手はご自身の役割をどう捉えていますか?

「岡山にいた時も同じような役割だったと思うんですね。J1からJ2のクラブへ移籍して、年齢も上の方で、『自分はファジアーノ岡山というクラブに何を残せるのか』と考えました。その答えは『ワンプレーの重み』を伝えていきたいということでした。

カテゴリが上がれば上がるほど『あのワンプレーで試合の流れが変わったよね』という瞬間が多くなります。逆にカテゴリが下がれば下がるほど、ワンプレーの価値はぼやけてくるんです。相手もミスする可能性が上がるので、自分たちのミスがミスでなくなってしまうというか。

だからこそ『今のは絶対にダメなミスなんだよ』『今のはすごくいいプレーだったよ』というのを厳しい基準をもって伝えていけば、選手たちはワンプレーの重みや価値を理解してくれると思います。それが選手としての僕の最も重要な役割ですね」


――田中選手自身が「ワンプレーの重み」を理解して、プレーに反映させられるようになったのはいつ頃でしたか?

「僕の場合、高卒でJリーグ年間優勝翌年の横浜F・マリノスに入団しました。そこは練習から『やってはいけないミス』をしたら先輩にドヤされるし、最悪話も聞いてくれないような環境だったんです。そういう厳しい空気が自然に漂うクラブでサッカーをやってきたので、求められる基準の高さを自然と体が覚えているんですよね。

だからこそ、あの厳しさを知っている人間として、勝つためにそれを周りに伝えていくことは自分に与えられた使命だと思っています。ワンプレーの重みを理解できる選手が増えれば、さらにいいチームになっていくと思います」


――ピッチ外ではプロサッカー選手のままだったらなかなか経験できなかったことにトライする場面が増えてくると思います。どんなことに挑戦していきたいと考えていますか?

「今回の移籍にあたって、僕の中で最も大きなポイントだったのがそこです。プロサッカー選手でなくなるという決断をした時に、サッカークラブはどうやって成り立っているのか、試合はどのように運営されているのか、お客さんやスポンサーをどう集めているのかといった、これまで抱いていた素朴な疑問に対して、自分から答えを見つけにいきたいと思っていました。その昔からの思いを叶えるチャンスをいただけたことが、CITY加入を決めた大きな要因の1つです。CITYでの仕事を通して自分のやれることの幅を広げていきたいと思っていますし、それが今の最大のモチベーションです。

また、将来サッカー界やスポーツ界に対して、僕は何を還元していけるのかもずっと考えていました。自分だけでなく、他の誰かに対しても選択肢を増やしていきたいというのは、僕のJリーガー時代からの思いでもあります。サッカー選手であることはアドバンテージでもあるし、ある意味それが足かせになっていて、新しいことにチャレンジできない世界でもあるんですよ。

サッカー界で生きていくのはもちろん素晴らしいことだと思うんですけど、『それだけじゃないよ』というのを自分自身が実践してみたい。CITYはサッカークラブなんですけど、それ以外のこともいろいろやっていますし、自分からクラブでの活動について発信していくことで、僕と同じような考え方の選手が出てきてくれると、サッカー界の新しい一面が見えてくるのかなと思います」


――東京都内にはJリーグを目指すクラブがたくさんあります。その中でCITYのホームタウンである渋谷区の「らしさ」をどう捉えていますか?

「やはり人口が多いので、東京にJリーグクラブが増えれば、さらに盛り上がると思います。すでに東京には3つのJリーグクラブがありますけど、いくつあっても悪いことではない。例えばロンドンであれば『ロンドンダービー』がたくさんありますし、東京に本拠地を置くクラブが切磋琢磨しながら盛り上がっていけばいいと思います。

その中で渋谷のイメージは『自由』ですね。老若男女いろいろな人がいますし、昔からのよさもあれば、どんどん新しいことが入ってくる側面もあって、誰もが自由に発信できる場所だと思います。魅力的な部分が多い街だと思うので、その中で『田中裕介』の自分らしい色を出していけば、より面白い存在になっていけるかなと。そのためにCITYに所属することを選びました」


――すでに練習にも合流されて、チームの輪郭もつかめてきているのではないかと思います。新たな挑戦に踏み出すにあたって、胸に抱いている今年の目標を教えてください。

「かなり雰囲気のいい、明るいチームだと思いました。みんな純粋にサッカーが好きなんだろうなと。昨年は関東リーグ昇格を成し遂げられなかったと聞いているので、チームメイトのみんなと一緒に今年は昇格という目標を、どんな形であれ絶対に達成したいです。

戦うカテゴリを上げることはクラブの価値を高めるのは間違いないので、自分としては怪我をせず1試合でも多くピッチに立ち、CITYに何かを残す。それが個人としての大きな目標です。

ピッチ外ではクラブのフロントとしての仕事が、全く経験のない分野でのチャレンジになります。僕にとっての新たなスタートという気持ちで、悔いのないように1年間やりきりたいと思います」


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